漆工芸を、美しく、丈夫に、永く使えるようにする陰の立役者。その一つである「漆刷毛(うるしばけ)」を360年以上に渡って、先祖代々の家業として世界でただ一人、江戸伝統技法を用いてつくり続けている元祖総本家※ 泉清吉(いずみ せいきち)。前回は、その次世代の担い手、十世 泉清吉である、泉虎吉に漆刷毛とは何か、そのモノづくりの魅力を伺った。今回は、漆刷毛師の世界を垣間見ていきたい。
※創業時から先祖代々の家業として一子相伝(いっしそうでん、モノづくりの技・本質を1人にだけ受け継いでいくこと)で、初代 泉清吉が考案した現在の漆刷毛のカタチを、江戸の伝統技法を用いて世界で唯一、受け継いでいる
楽しかったモノづくり
家には、人毛や材木、鋸(のこぎり)や鉋(かんな)などの道具があるのが当たり前でした。友達の家に遊びに行ったりしたときに、そういうものが普通は存在しないことに逆に驚いた記憶があります。
と話す、泉虎吉氏。泉清吉は、一子相伝(いっしそうでん)で、モノづくりの技・本質を1人にだけ受け継いでおり、泉虎吉はその10人目である十世 泉清吉にあたる。親から子へ、と受け継いでいく環境で生まれ育った彼にとって、自分もその名を継ぐことになることは、ごく自然な成り行きだったそうだ。幼少の頃から、父を手伝うこともあり、一緒にモノづくりをすることが楽しかったという。
日本の伝統文化に関わる産業全体を後世に繋げて、成長させていきたい
二十歳になった頃、将来どうしていくのかを考えたときに、「これからも漆刷毛をつくり続けたい」と思ったこと。同時期に、漆刷毛を使ってくださっているところで、父である九世 泉清吉とともに、直接話しを聞くうちに「日本の漆芸や伝統文化を守って、後世に繋げていきたい」という想いから、十世 泉清吉を目指すことを決める。
面白いことに、彼自身は漆刷毛師になる前に、学生時代に、グラフィックデザインを手掛けたり、会社員としてテクノロジー系の仕事に携わるなど、無から有をつくることを得意としていた。そこから、有を永にと、伝統継承する役割を担っているのである。
父の九世も、『50年くらいつくり続けて、ようやくカタチになってきた』と言っているので、まだまだ道は長いなと思っています。自分で手を動かして、失敗をしながらでないと、上手くなることはあり得ません。だから、ただこれからも毎日ただひたすら漆刷毛をつくっていこうと思っています。
泉虎吉氏は、十世 泉清吉としての役目を「漆芸を含めた、日本の伝統文化や、それに関わる産業全体を、後世に繋いで、成長させていくこと」だと言う。多彩な経験や、見地を持つ彼が、これからも歩み続ける、漆刷毛師としての人生は、可能性に溢れている。
destination
明暦二年(1656年)から、360年以上に渡って、江戸伝統技法を用いてつくり続けている元祖総本家 泉清吉(いずみ せいきち)の次世代の担い手、十世 泉清吉。
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