
漆工芸を、美しく、丈夫に、永く使えるようにする陰の立役者。その一つである「漆刷毛(うるしばけ)」を360年以上に渡って、先祖代々の家業として世界でただ一人、江戸伝統技法を用いてつくり続けている元祖総本家※ 泉清吉(いずみ せいきち)の次世代の担い手、十世 泉清吉である、泉虎吉氏にお話を伺うことができた。
※創業時から先祖代々の家業として一子相伝(いっしそうでん、モノづくりの技・本質を1人にだけ受け継いでいくこと)で、初代 泉清吉が考案した現在の漆刷毛のカタチを、江戸の伝統技法を用いて世界で唯一、受け継いでいる
モノづくりを支える陰の立役者、「漆刷毛」
かつて「漆」を使った製品のことを海外では「japan」と称したほど、漆は、日本で古くから漆器や、家具・宝具・武具、国宝の修復など様々なものに使われてきた。漆を扱うモノづくりを行う上で、欠かすことのできないもの。それが「漆刷毛」である。
我々が、モノづくりの現場で取材しているときに、必ず道具の話が出てくる。昨今、伝統工芸の担い手が減っていることを耳にすることは、皆さんも多いだろう。現場では、担い手だけでなく、「道具のつくり手」が減っていることで、「道具」自体を手に入れられなくなることへの危機感も強い。道具がなければ、モノはつくれない。
江戸と変わらぬ技と時間をかけてつくられていく
そもそも「漆刷毛」とは、どのような道具なのか。それは“漆を美しく塗ることを極めた”刷毛である。
元祖総本家 泉清吉は、明暦二年(1656年)から、一子相伝で、現在まで360年、江戸伝統技法に忠実に、漆刷毛をつくり続けている。
漆刷毛の特徴の一つが、人毛(じんもう)を用いていることである。実は、漆刷毛に用いる人毛も木材も、長い年月の乾燥を必要とする。そのため江戸時代と同じ時間、手間をかけて初代と同じ製法でつくられた「泉清吉刷毛」は、全て日本人毛髪の古かもじ(日本結い髪に用いるつけ毛の一種)と、百年超の木曽檜が使用されている。
唯一無二の漆刷毛
自然のものを材料としているので、どれひとつ同じモノはない。人毛は、折れているものなどは取り除き、良いものだけを選別する。元の人毛から3割程度しか用いられないこともある。木材は、木の目や節を見極めることが求められ、鋸(のこぎり)や鉋(かんな)といった道具の質や手入れの具合も大きく影響する。
つくっているときの気温や、湿度、実際に使う職人にとって最良の使い心地になることなど、多岐にわたる様々な事象を考慮しながら、漆刷毛という道具がつくられていくのだ。
同じものをつくっているけど、同じものをつくっていない。だからつくっていても全く飽きることがない。つくればつくるほど、奥深さを感じるところが面白いんです。
モノづくりを支えるモノづくり。そこにもまた、知れば知るほど、好奇心を掻き立てられる魅力がある。