時間をかけてつくり上げられ、使い込まれていく工芸品。
経年変化を愉しむ、⻑く大切に使う、技術を次の時代に継承するなど、日本人のその丁寧な暮らし方やモノづくりの姿勢には、現代の言葉で言う「サステナブル」が見え隠れしている。
千年の時を超えて受け継がれる技術
日本美術織物の最高峰と呼ばれる綴織(つづれおり)。
数々の文化財を今も鮮やかに彩る綴織には約4000年の歴史があり、西陣織史上最古の織物であると言われている。
世界最古のものは、古代エジプトの王墓から出土したコプト織。
その後世界各地に広がり、フランスではゴブラン織と呼ばれ、中国を通り、長い年月をかけて飛鳥時代に日本へと伝わった。
その豊かな表現力と多彩な色使い、耐久性の高い組織構造が大きな特徴である。
それらは時代を追うごとに、表現方法を発展させながら、千年の時を超えて受け継がれている。
職人が織る様子。足元のペダルを踏むことで縦糸を上下に動かし、その間に横糸を通し手前に掻き寄せ、横糸だけで模様を表現する。横糸で縦糸を包み込むように織るため、表面に縦糸は見えず、表裏に同じ模様が現れるのが特徴。
そんな歴史ある綴織が完成するのには、無論多くの時間を要する。
原画が完成した後、絹糸の色を決め、染色し、職人さんへ渡り、織り機で縦糸を張る作業などが整ったら、ようやく織出しができる。
そして織出し、反物の状態になったら仕立て屋さんへと渡り、手縫いで仕立て上げられ、必要であれば撥水加工も重ね、綴織が完成するのである。
爪をも、道具に。
見逃してはならない綴織の最大の特徴は、爪描本綴織(つめかきほんつづれ)という技法だ。
爪で横糸を掻き寄せて絵柄を形作っていく様子。掻き寄せる爪の加減で曲線を描く。
自らの爪をヤスリでギザギザに研ぎ、爪先を道具のように使い、横糸を掻き寄せて絵柄を形作っていく。
道具では織ることができない細かい部分を折るためには、爪が必要だという。
爪を使って織る職人の技術が何百年、何千年にも渡り継承されており、それにより織りなされた細やかな模様は、今も昔も変わることなく美しい。
受け継がれてきた技術を絶やさないために、時代とともにカタチを変えていく
「綴織を100年後も残していきたい」と語るのは、滋賀県で唯一の綴織の職元であり、手作業で美しい織物を生み出す清原織物の11代目、清原聖司さん。
綴織は非日常的な場面で作っているものが多く、人の目に触れる機会が少ない。
そこで、より多くの人と接点を持つことが必要と考え、約2年前に自社ブランド「sufuto」を立ち上げた。
綴織は、昔から晴れの日や晴れ舞台に用いられ、その中でも最高峰のものとして使われてきた。
既に最高峰の織物として認知され、格付けされているそれは「縁起のいい布、織物である」とし、祝い事をテーマにしたプロダクトブランドを始めた。
受け継がれてきた技術を絶やさないために、新たなモノづくりに挑戦しているのである。
手織りの綴織で仕立てた名刺入れ。軽量でありながらも強度が高いのが特徴。
プロダクトの一つでもある名刺入れの特徴は、千鳥がけ。
マチの部分を内側に折り曲げた構造にすると、折り畳んだ時に厚みがで出たり、大きく設計しないといけなくなってしまう。
しかし、この技法を用いることで、糸に伸縮性があるために角の部分が不要になる。
織物と横の糸だけでできていて、芯も要らず、デザインに無駄がない。
千鳥がけの様子。 一般的な縫い方とは逆に、糸を交差させながら進むのが特徴。
本当に必要な部分だけ、糸を布に変えて使うという、
「無駄な部分を織らない、糸を無駄にしない」という考え方。
サステナブルと世の中で謳われ始める何百年も前から、この綴織を含め、日本の文化の中で当たり前のようにそれをやってきたのである。
伝統を継承するため、次の世代へ種まきをする
「綴織を100年後に残したいとなると、達成するのは自分ではなく次の世代なんです」と、清原さんは語る。
次の世代である、今の子供たちとの接点を作るために昨年頃からワークショップを始めた。
親子で来てくれた方々からの「楽しかった」という温かい声に、希望を持つ。
そして、実際に商品を手に取ってくれる若い世代へその理由を問うと、一番多く聞かれるのが「綺麗だったから」という声。
無地の生地で複雑な模様が入っているわけではないが、語らずともその魅力に引き寄せられ、手にとる人たちに繊細な美しさや魅力が伝わるのである。
「接点がないばかりにその魅力に気づかない人にこそ見てもらい、知ってもらい、作ってもらえる機会をたくさん増やしていきたい」と語る。
長年に渡って受け継がれてきた技術をを継承していく、そして無駄のないものづくりの魅力を伝えるためにも、次世代との接点を増やしていくことが、100年後の未来を大きく変えることになるだろう。