減少する技術の担い手
有田焼と同じく、400年以上の歴史を持つ波佐見焼。
現在でも日用食器として使われ続けているが、それらは長い間「有田焼」として知られ、近年までその名前が表に出ることは少なかった。
有田焼は佐賀藩の殿様用の献上品として作られ、伝統的な技術を元に繊細で綺麗に仕上げられた器である一方で、波佐見焼は大村藩で量産型の庶民的な器として、大胆な筆遣いと一色で絵付けし作られてきたというのが大きな特徴であり、違いである。
約10年前までは「有田焼」として世に出ている陶器の7〜8割は波佐見焼ということが多かったが、波佐見焼も一つのブランドとして成り立っていかなければならないと街ぐるみでの取り組みを始め、現在では一つのブランドとして認識され始めている。
そんな波佐見焼の窯元は60〜70あると言われているが、少しずつ減少しているのが現状である。
伝統を継承すべく、時代に合わせた用途を探る
「時代の流れに乗り、絵を描く技術や釉薬だけで色を表現できる技術など、様々な技術を用いて幅広い陶器を作れるというのが波佐見の良さ」と語るのは、長崎県波佐見町で波佐見焼を作る、藍染窯の樋渡常司さん。
地域を挙げて波佐見焼を作る新たな取り組みとして、様々な場所へ出向き周知活動を行ったり、波佐見町にデザイナーや陶芸家が入れる状況を作り、力を合わせてモノづくりをしている。
現状の問題点を踏まえながら、波佐見焼の認知度を着実に上げているのである。
一つひとつの個性を美しさと認める
波佐見焼は分業制である中で、自分たちでも陶器が作りたいと会社を立ち上げたという歴史を持つ藍染窯は、今から約30年前に始まった。
自由度が高く、量産できるという利点を持つ中で、代償があるのも事実だが、均一的な美しさだけでなく、一つ一つの個体差が個性として認められるようなモノづくりを心掛けている。
日の当たり具合で表情がひとつひとつ違ったり、金彩が浮き上がってきたり、釉薬の焦げが出るというのも、一期一会の面白さ。
違いの中に、唯一無二の美しさがあるのだ。
想いをカタチにする場所づくり
「自分の欲求からモノづくりをしていく」という樋渡さんは、「100人のうち一人にでも同じ想いを持つ人に支えてもらえたら嬉しい」と語る。
そこで、自分たちの想いやコンセプトを伝えられる場所が欲しいと始めたのが、「No.1210」というカフェである。
実際にコーヒーを淹れたり食べ物を盛ることで使い手のイメージが湧きやすく、来てくれる人の購入や異業種の方々との新しい繋がりが生まれている。
ここでは世界観をダイレクトに魅せることができ、同じ想いを持つ人が一緒に働きたいと、今までになかった角度からの採用に繋がっているというのも興味深い。
循環型社会における日本のモノづくり
時代と共に変化しながら、伝統を継承すべく試行錯誤を続けることは、今後もあらゆるモノづくりにおいて必要となってくるのではないだろうか。
美しいモノづくりを広めるためには、まず知ってもらうこと。
その入り口を「想いを伝える場所を作る」「実際に見てもらう、使ってもらう」という切り口で取り組んでいるのが、今回紹介した藍染窯である。
様々なカタチで変化する日本のモノづくり。
地域社会の大きな発展に繋がる取組は、今後どのように変化していくのだろうか。