東京では江戸時代から銀を用いて器などの生活用品や様々な装飾品が作られてきた。
このシリーズでは、その伝統の技を受け継いでいる有限会社 日伸貴金属の上川宗達氏が語る歴史的背景や魅力について紹介してきたが、今回は「目から舌から」楽しめる挑戦的な作品、「SenzaFine(センツァフィーネ)」に込められた思いを伺った。
【銀器②】銀は人間に一番近い存在。道具作りから始まる銀器の魅力
『終わりなき』ものづくりへの情熱
LEXUS NEW TAKUMI PROJECT2018にて発表したプロダクト、「SenzaFine(センツァフィーネ)」。
ゆらゆらと揺れるが、飲み物を注ぐと安定するという面白いグラスだ。
その内側にも工夫がなされ、注がれた飲み物が、ダイヤのようにキラキラと光り輝くようになっている。このような挑戦的でユニークな作品は、どのような想いから生まれたのだろうか。
「SenzaFineはイタリア語で『終わりなき』を意味します。いつまでも使え、親から子へ、娘から孫へ、100年200年と使ってもらえるものを作りたいという気持ちを込め、遊び心と銀の特性を詰めた作品です。遊び心というのは江戸の「粋」です。揺れる様子を目で楽しみ、触ったときの馴染みの良さも感じることができる。さらに、飲み物を注いだときに乱反射した様子も、再び目で楽しめて完成する。そのような遊び心を作り上げることを目指しました。」
実際にSenzaFineは、キャッチコピー通りに「目から舌から」楽しめる作品である。このものづくりの発想の起点になったのは、何なのだろうか。
「私自身が飲み物を美味しく飲みたいという気持ちもあります。何をどうしたら、どこまで美味しく飲めるのか。要素としては、見た目や舌触り、食感など五感や、その日の体調、温度でも味は変わっていきます。見ても涼やかで、飲んでも冷たい。揺れている様子を見ていると会話も生まれる。それを重要視しました。自分にとって大切な人と飲んでいると美味しく感じますよね。」
と話す宗達氏。
彼が楽しめることに重点を置いている理由はそれだけではない。かつては裕福な商人などがパトロンとなり、職人を援助していた歴史があったため、時間をかけて技術をより磨くことができた。
しかし、今日では作品を作り、買ってもらわないと持続が難しい。銀器は「用の美」から始まったが、美術銀器と言われる「飾るもの」になってしまったそうだ。しかし、それでは関心を持つ人も限られてしまうため、「使ってみたい」と思ってもらうためにも、楽しめることが重要と彼は語る。
最後に銀のスプーンを氷にあて、どのように銀が熱を伝えるかを体験させてもらった編集部。
アルミやプラスチック製のスプーンと全く違い、氷の冷たさが手に伝わってくる感覚が鮮明であり、逆に体温が銀を伝わりスプーンが氷を裂いていく様子も確認することができた。その体験は非常に興奮するものであり、我々も銀の魅力に引き込まれる取材となった。
日本古来から受け継がれている伝統工芸の技を用いて創意工夫をこらし、作り手から使い手へ心を伝える作品や商品を製作・販売している有限会社日伸貴金属。宗達氏は東京銀器の祖、初代平田禅之丞から11代にわたり技を継承し、父である上川宗照は現代の名工・伝統工芸士・黄綬褒章作家として活動中。
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